January 31, 2023

ラボ型開発(ラボ契約・ODC)とは?請負契約との違い、メリット・デメリットや向いている案件を解説

アプリケーションなどのソフトウェアを開発において、自社内で開発する内製と、外部の開発会社に開発を依頼する外製(外注)の2つ選択肢があります。内製は、自社の技術開発力の向上につながるメリットがある反面、専門知識を保有する技術力の高い社員エンジニアの存在が不可欠であり、システム完成後も人材の維持確保が必要になるというデメリットもあります。

一方、外製では専門性の高い部分を全て外部に委託でき、プロジェクトの遅延も発生しにくいことから、外製によるソフトウェア開発を行う企業が多くあり、昨今では人材不足や開発コスト削減などの観点から、オフショア開発が盛んに行われています。

今回は、オフショア開発のなかでもラボ型開発と呼ばれる形態について、その概要やメリット・デメリット、ラボ型開発に向いている案件について解説します。

ラボ型開発(ラボ契約・ODC)とは

ラボ型開発とは、海外のリソースや企業を活用して開発する「オフショア開発」の類語で、「ラボ契約」「オフショア開発センター(ODC)」と呼ばれることもあります。ラボ型開発はオフショア開発における契約形態のひとつで、近年は、契約請負よりもラボ型開発を含む準委任契約での開発が盛んに行われています。

  • 請負契約
    仕事の完了までを請け負う。契約発注者は要件を明確に定義し、ベンダーは作成された仕様書に沿って設計・開発から実装・テストまでを行い、期日までに成果物を納めるという請け負う。
  • 準委任契約
    特定の業務を遂行することを定めた契約。請負契約とは異なり、成果物の完成の有無は問わない。準委任契約は、さらにラボ契約とSES契約に分けられる。
  • ラボ契約(ラボ型開発)
    すべてのエンジニアは日本国外に滞在する。発注者は一定期間(およそ半年~2年程度)の契約を結び、エンジニアチームを組んでプロジェクトを進めていくというもの。
  • SES契約
    エンジニアを発注元に常駐させる。ラボ型開発同様、エンジニアチームを組んでプロジェクトを進めていく。より流動的な案件や、エンジニアを教育したい場合などに用いられる。
  • BOT方式
    現地オフショア会社が人材リソースを確保し安定運用後にチームを丸ごと買い取る方式。
    Build(設立)、Operate(運営)、Transfer(委譲)を略した言葉。

請負契約では、ベンダーが納品した成果物に対して報酬が支払われます。一方で準委任契約ではベンダーが行う労働そのものに対して報酬が支払われるため、請負契約とは異なりプロジェクトの内容や進捗状況に応じて柔軟な変更が可能です。

近年では、ラボ契約とSES契約の両方を活用する「ハイブリッド型」の契約形態をとることも多く見られます。例えば、プロジェクトのキックオフから1〜2ヵ月間はSES契約で業務に慣れてもらい、その後帰国してラボ契約で働いてもらったり、人数を減らしたりするといったケースです。

オフショア開発について、別の記事「オフショア開発とは|メリット・デメリット・成功に導く6つのポイント」で紹介しています。

ラボ型開発と準委任契約の違い

ラボ型開発(ラボ契約)は準委任契約の形態のひとつです。

システム開発における委託契約は前述の「請負契約」または「準委任契約」によってなされますが、請負契約が成果物の完成を目的とするのに対し、準委任契約は労働の代行を目的としている点が異なります。

単純に「準委任契約」と言う場合はシステム開発以外にも使われ、準委任契約のなかのシステム開発における形態がラボ型開発ということになります。

ラボ型開発(ラボ契約・ODC)のメリット

ラボ型開発には、以下のようなメリットがあります。

一定期間、専属開発チームとしてメンバー固定でエンジニアを確保できる

ラボ型開発では期間を決めて契約するため、期間内であれば継続的に案件の発注が可能です。期間内にいくつか連続して案件が入る場合でも、案件ごとにチームを組み直したり、一から情報共有をしたりする手間が省けます。

近年、東南アジア諸国のエンジニアのスキルは、日本国内のエンジニアと同等またはハイスキルな場合少なくなく、優秀な人材を中~長期間にわたり確保できます。

中~長期間腰を据えて案件に取り組むことで、ラボ型開発の委託先が発注側の業務体制や企業風土に慣れることができ、安定的に開発できるのも大きなメリットです。優秀な人材リソースを安定的に確保して開発できれば、機能を拡張しバグを改修する作業や業務を進めるための時間的リソースも確保しやすくなります。それにより、エンジニアも高いクオリティの成果物をスピーディーに納品することが可能になります。

自社内に開発や経験を暗号化できる

ラボ型開発では、同じエンジニアメンバーと一定期間連携するため、自社内で開発が伏せられやすいのも大きなメリットです。

必須がはっきり決まっていないプロジェクトでも取り組むことができる

ラボ型開発では、請負契約と異なり成果物が明確に決まっているとは限らず、途中で仕様変更をしたり、各種調整したりすることも容易です。企画や施策が確定していない状態でも、協働しながら進めていけるでしょう。請負契約のように、仕様変更や調整について追加費用が発生することもなく、契約期間内なら自由にリソースを使えます。

例えば、ラボ型契約で5名のエンジニアに開発を依頼した場合、最初の4カ月は全員に新規のアプリケーション開発を依頼し、その後の2カ月は3名が追加機能の実装を担当し、2人に細かいバグ対応や改善を担当するなど、フェーズや状況に応じて臨機応変かつ柔軟にチームを動かすことができます。

ラボ型開発(ラボ契約・ODC)のデメリット

ラボ型開発には、以下のようなデメリットがあります。

チームの立ち上げや維持にコストがかかる

ラボ型開発は一定期間専属のチームを確保できる契約なので、一定量の発注を続けられる場合はコストパフォーマンスが良いです。

一方、契約期間内はコストが発生し続けるため、依頼する案件の業務や作業量が極端に少ない場合に予定よりも早く開発が完了しても、その後に依頼する案件がない期間があるとその分は余計なコストとなり、請負契約よりもコストが高くなってしまう可能性があります。特に、単発の案件や短期の案件の場合は割高になってしまう可能性があり、チームを中長期に渡って押さえておくメリットが得られにくいでしょう。

契約期間中はリソースを無駄を生じさせないように、一定の業務量を発注できる準備を行っておく必要があります。少なくとも3カ月以上の開発が必要となる案件や、複数の単発・短期の案件を準備しておき、リソースを余らせないようにするのがおすすめです。

発注者が主体的にマネジメントする必要がある

開発をスムーズに進めるためには、チーム構築のほかに体制作りが必要です。特に、ラボ型開発では請負契約のようにすべてを発注先に任せられるわけではなく、チームとして協働する形態となるためコミュニケーションが特に重要になります。そのため、発注元が主体的にチームビルディングやマネジメントをする必要があることから、発注元の負担は請負契約と比べると大きくなります。

オフショア開発では、日本語が堪能な委託先に依頼できるとは限りません。国内に日本法人や支社があるオフショア開発会社を選んだり、開発技術だけでなくコミュニケーション言語の能力も含めて人選したりして、コミュニケーションに齟齬(そご)が生まれないような体制作りが必要です。

チームビルディングに時間がかかる

ラボ型開発では、初めにチームを構築します。チームメンバーを選ぶ際には、単純にスキルが高い人材を集めればよいとは限らず、開発内容や自社の文化などさまざまな要素を考慮し、開発内容に合っていて相性の良い人材を慎重に選んでチームを構築する必要があります。

また、チーム構築から実際に開発に入るまでは、一般的に半月~3カ月程度の期間が必要なため、その期間も考慮しなくてはなりません。

また、ラボ型開発では、発注元がチームの一員となって開発を指示する必要があります。成果物の仕様にズレが生じないようチェックしたり、メンバーに体制や企業風土についてレクチャーしたりすることもあるでしょう。チーム結成後の滑り出しがうまくいくとは限らず、チームとしての機能が軌道に乗るまではある程度時間がかかることを念頭に置きましょう。

ラボ型開発(ラボ契約・ODC)が向いている案件

ラボ型開発は、以下のような案件に向いています。

定期的に発生する案件がある

業務委託したい案件が定期的に発生するのであれば、ラボ型開発がおすすめです。特に、既存のアプリやサービスの運用・改修をする場合に向いているでしょう。契約期間中は自社専属の開発チームを確保でき、案件が変わるごとにチームを再構築したり、一から情報共有したりする必要がありません。

そのため、開発案件が途切れず発生するけれど人員が足りないという場合にラボ型開発を利用すれば、案件ごとに依頼先を探したりすり合わせをしたりする手間がかからず、コストやストレスの軽減につながるでしょう。

仕様変更や修正が生じる可能性がある

ラボ型開発は契約期間内であれば追加費用なしで対応してもらえるので、完成形がはっきり決まっていない案件や、仕様の追加や変更が生じやすい案件に向いています。請負型に比べてコストが抑えられるだけでなく、中~長期にわたって同じチームで作業していくので、指示を的確に理解して適切に作業してもらいやすいでしょう。

また、AI等の先端技術を用いたIT開発や、完成形が定まりにくい研究開発の要素を含むという場合にもラボ型開発は向いています。

アジャイル型開発の案件である

システムやアプリの開発には、大きく分けてウォーターフォール型とアジャイル型の2つの開発体制があります。

  • ウォーターフォール型
    開発の最初の段階で要件や仕様を詳しく決定し、すべて完成してからリリースする。
  • アジャイル型
    要件や仕様はざっくりとした状態で開発をスタート、短期間で設計、リリース、テストを繰り返しながら改修と開発を進めていく。

ウォーターフォール型の開発は初めに要件や仕様を詳しく決めるため、請負契約に向いています。一方、アジャイル型はスピーディーにリリースできる半面、あとから細かな改修や開発を繰り返していくため、ラボ型開発との相性が良いです。

ラボ型開発は期間内での柔軟な対応が可能

ラボ型開発は、請負契約のように成果物が完成するまでではなく、一定期間チームを組んで協働し、エンジニアを確保できる開発形態です。契約期間内は追加コストなく仕様の変更や調整が可能なため、案件が定期的に発生する場合やあとから追加・変更が生じやすい案件に向いています。

ラボ型開発はメリットが多く、アジャイル型開発とも相性が良いですが、チームの立ち上げや維持にコストがかかるなどデメリットもあります。ラボ契約とSES契約を併用してデメリットを解消する方法などもあります。

オフショア開発をご検討中の際は、是非一度、弊社までお気軽にご相談ください。貴社に最適なオフショア開発の形態をご提案いたします。

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